撤退も視野に?まさか
準さん高等部上がりたて。慎吾さんと最後の彼女の別れ際。
話を思い付いたところに女王蜂様の曲に出会って可愛くて、要素たっぷりお借りしました。
逃げ場が無くて、好きで欲しくてみっともなくがむしゃら必死な感じが良い。
じゃあね慎吾、と、最後に一度だけオレを見上げて彼女は去った。
蕾が色づき始めた桜並木を、項垂れもせず往くその後姿を、最後に一度だけ見遣る。
潔い、なんて思うのは、オレの勝手な願望だ。踵を返して校舎の外れを目指す。
聞き難いであろうオレの話を黙って聞いて、眼を潤ませても呑み込んで。少し笑って見せた彼女を、オレに『ごめん』を言わせなかった彼女を、決して長くはなかった付き合いの中で一番綺麗だと思った。
(…良い女)
しかし、切り出した事を性急過ぎたとは思わない。
『好きな奴が出来た』と、別れる理由に初めて言った。別れる相手を初めて泣かせた。自分からまともに別れ話をする事自体、下手をすると初めてだ。
『他に』と頭に付け忘れたオレの愚かさに、彼女は気付いていただろうか。
嘘でも何でも、いくらでも取り繕い様があったろうに。
気が付いたらぺろりと口から出ていた台詞に、言った自分がギョッとした。
選んでいられなかった、傷付かない為の手段と傷付けない為の手段。
武器なら沢山持っているつもりでいたのに、実際の所こんなにも心許無い。次口を開いたら何を言い出すか。
(…でも)
今行かないと仕様が無い。
(今、すぐ、)
前方に対象を確認した。
日当たりが悪い為か、まだ蕾も付けられていない見栄えのしない桜の木の陰。汚れたコンクリートの階段に、真新しい制服を気にもせず腰を下ろし、部活後ですら当たり前みたいに白球を弄う。持ったばかりの携帯電話では、遊び相手にならない子供。
丁度良く、遠く校舎で鳴ったチャイムがまるで警告音の様に頭に響いて。
緊張か期待か恐怖か、ザワつく胸で息を吸う。
(会いたい)
先手必勝。準備も罠もクソも無い。
こっち見ろ、と思いながら。
ただ持った声でその名を呼んだ。
<これは恋愛なのだから>
望むのは、ただただ君との白兵戦。